シルビア
葛西さん、面倒見はいいけどどうも余計なお世話なんだよねぇ……。
年下の黒木ちゃんの結婚話を私が気にしているとでも思って、こうして動いてくれるのだろう。
けどあいにく私は、先輩や同い年はもちろん、後輩に先を越されることも、ひとり置き去りにされることももう慣れているものだから、特に気にもしていないし今更へこみも焦りもしない。
いい人だけど、こういうところがなんか惜しい人だ。
けど明日か……服どうしようかな、気合いが入ってると思われるのもいやだけど、多少はおしゃれもしたいし……。
「お疲れ様でーす」
「あ、お疲れ様です」
皆がせかせかと動くフロア内の端っこで、ひとりそう考えていると、ドアから姿を現したのは武田さんと望のふたり。
武田さんの手には白い紙袋、望の手には数枚の書類が持たれている。
「うちの上司からお土産貰ったんですけど、いっぱいあるんで皆でお茶にしません?」
「わーい、しますします〜。凛花さん、いいですよね?」
「うん。じゃあ私お茶淹れてくるね」
武田さんが持ってきてくれたお菓子の箱に、女の子たちは「わぁ」と嬉しそうに声をあげる。
その反応に笑いながら席を立つと、私はお茶を淹れに近くの給湯室へと向かった。
わざわざこっちまで持ってきてくれるなんて、武田さんは優しいなぁ。
社員それぞれの専用カップにインスタントのコーヒーを手早く淹れると、狭い室内にふわりとコーヒーの匂いが漂う。
私はコーヒー苦手だから、緑茶でも淹れようかな……。
「りーんか」
「え?」
その時、突然呼ばれた名前。
軽い呼び方と低い声から、誰が呼んだかをすぐ頭に思い浮かべながら振り向いた。
すると口に押し込まれる一枚のクッキーに「むがっ」と驚く私に、クッキーを押し込んだ犯人、望はへへっと笑う。