シルビア
「……ここまでくれば、大丈夫かな」
そのまま歩いてきた、駅をとっくに通り過ぎたところにある細道で、望は後ろを確認して足を止めた。
「ここまでくれば……って、その子は?」
「へ?あぁ、彼女なら吐いてないよ?」
吐いて、ない?……ってことは。
「なっ……嘘ついたのね!?」
「まぁまぁ、怒らない怒らない」
一気に不機嫌な顔になり腕を振り払う私に、望はいつも同様へらっとした笑みを見せた。
「なんでそんなくだらない嘘、ついたのよ」
「なんでって……凛花の困ったような声が聞こえたから」
つぶやきこちらを見る瞳は優しく、いつだって見透かされているような気持ちになる。
「……彼女は?」
「歩けないっていうから、タクシー乗り場まで送って、タクシーに突っ込んできた。そしたら丁度、凛花たちがあの通りに入ってくのが見えたから」
『送る』って……そういうことだったの?
すっかりそのまま、という想像しかしてなかったものだから、驚きが隠せない。
そんな私の頭の中までお見通しなのだろうか、望はふっと笑うと額を指先で軽く弾いた。
「いたっ」
「凛花のバカ。見る目なさすぎ」
「へ?」
「あいつ誰でも構わず手出しするって、男の間では有名なんだよ。女だったら誰でもいいの」
そうなの!?
じゃ、じゃああれは私が個人的に好かれていたわけじゃなく、女だったら誰でもよかったってだけ……。
好かれている、と思い上がる気持ちがなかったわけじゃない。それだけに、ただの女好きという事実には少しへこんでしまう。