ユウウコララマハイル
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自宅と職場、古沢が勤めるカフェの往復くらいしかしないナツミは、珍しく友人と会うためにランチへ出かけた。
この店のカルボナーラも美味しいのだが、ナツミの口にはしっくりこない。
以前同居人が作ってくれた味と比較してみるとなにかが足りないのだ。
そのなにかがわからない。


「どうかした?」
「ううん、なんでもない。アカネのも美味しそうだよね」


幼馴染みであるアカネが頼んだのはペペロンチーノだ。
シンプルな材料で作られた、一見すると簡単に作れそうなものだが、やっかいなことに奥が深いらしい。
以前薀蓄好きの古沢が「鷹の爪は火を通すほど辛味が強くなる」や「パスタは細めでスパゲッティーニやカッペリーニがあう」など聞いてもいないのに話していた。
古沢はまだ調理見習いの分際なのだが出来栄えは素晴らしく、作ってもらったときナツミは「松本先輩の教え方がよい」と褒める。
それはペペロンチーノに限ったことではないので、その言葉は常套的に使われている。


「最近どう?」


どうって聞かれても困ると言ったあと、「そっちは?」と質問を投げる。


アカネに会うのは引っ越してから二度目になる。
一度目はつい先週のこと、本嫌いのアカネがナツミの勤める書店に来たのだ。
都内で働いていたときもアカネから一方的な電話がかかってきていたのだが、最近はめっきり減っていたからかもしれない。
どうやら自分は地元に出戻ったことを伝えていなかったらしい。
猛抗議を受けたナツミはこうしてアカネにランチを奢っている。
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