ユウウコララマハイル
「兄はどうしてんの? 兄貴と一緒に行けばいいでしょ」
「アレはだめだよ、アレは。松本先輩と今度こそくっつくし」


松本は古沢が勤めるカフェの調理担当で、マスターの妹のことだ。
アカネの兄は松本と同級生でもある。


「まったく、ハルキさんの言う通りになったよね。“将来結婚するよ、ふたり”なんてさ」


そう言っていたのは随分昔、ナツミが幼かった頃だ。
よく覚えてるなぁとアカネの記憶力のよさに感心する。


「よかったね、おめでとう! 長かったね」
「ホントだよ、やっとだよ。別れたりくっついたり。あの人たち中学のときから同じこと繰り返してんだから、周りからしてみれば、ホントいい加減にしろって感じだったし。妹として肩の荷が下りた気分だよ」


式はいつ頃なのと訊くと来春と返ってきた。
それも「その間にまた別れなきゃいいけどね」という嫌味つきだ。


「ますます、お母さんの風当たりが強くなりそうだね」
「ホントこっちは堪ったもんじゃないってーの」
「職場には出会い、転がってないの?」
「ないない。たまに男性のお客さんは来るけど、基本女だらけだからね」


背が高くスタイルがよいアカネは、隙がないほどに綺麗な容姿をしている。
三度の転職を経てたどり着いたエステティシャンという職業は、その容姿を保たなくてはならないという危機管理がなせる業なのかもしれない。


「そっちは転がってんの?」
「まぁ、転がってるんじゃない? うちのバイトちゃんがお客さんにナンパされて、この間断ってたから」
「そのバイトちゃん若いの?」
「うちらより三つ年下だよ」
「ってことは二十七かー。すごいねー。で、ナツミは?」


ついでのように訊いているが、これが本題なのだろう。
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