ユウウコララマハイル
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小井土家の洗濯機を前にカケルは頭を抱える。
洗濯機が回らない―――通電だけはしたという鈍い機械音だけを鳴らしている、単なる大きな箱になっている。
とりあえず自分ができることというのは中央のプロペラ部分、パルセーターを外すことくらいだ。
やってみると軸部分が磨耗し、空回りしているのがわかった。
これは交換でなんとかなると思うけれど、もしそれ以外が原因であるなら、洗濯機の心臓部であるクラッチが故障している可能性が高い。
こうなってくると素人であるカケルにはお手上げだ。


溜め息を落としながら、カケルは自転車に跨った。
電話で問いあわせたところメーカーの小規模小売店で取り扱っていて、在庫もあるということだ。
幸いなのかその店は片道二十分程度で着くらしい。
万が一買って回らなかったら困るので、嫌々ながら実費で買い求めることにした。


とんだボランティアだよ。


カケルはペーパードライバーだ。
都内で生活していたときはほとんど困らなかったけれど、田舎暮らしでは難しい。
そんなことは重々承知していて、身に染みているのだけれど、錆ついた運転技術では不安が募るばかりで購入する気になれない。
しかし午後四時を過ぎても、太陽が燦々と照っている季節はその不安を一蹴する力がある。
「絶対今年中に買ってやる!」と天敵である暑さを前に思う。


コンビニよりも小さな小売店で無事パルセーターを購入する。
金銭授受をしていると店の外から、かすかに賑やかな歓声が聞こえてきた。
小柄な老店主は近くに幼稚園があることを教えてくれた。
今は夏休み真っ最中だけれど、幼稚園は希望者に預かり保育というものをやっているらしい。
店主は「うちの孫も預けることがあるの」と微笑んでいた。
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