ユウウコララマハイル
小売店の帰り、少し興味をそそられてカケルは寄り道をすることにした。
先ほどの店主によると、ここから五分もかからないところにその幼稚園があるらしい。
自転車だと楽々その時間を短縮できる。
車だったら、エンジンをかけて、発車して、停める場所を見つけてとそれ以上の時間がかかってしまうだろう。
こういうときは小回りの利く自転車が便利だ。


「ほうほう、これがうわさのときわ幼稚園」


この幼稚園にマスターの愛娘であるイツキと、店にポストカードを卸している広瀬の息子が通っている。


園舎は道路に面してコの字型のようになっているようで、園庭が外から見えないようになっている。
キャピキャピとした瑞々しい声がカケルの耳に届くばかりだ。


「ときわって常盤色のことなんだろうな」


入り口にある表札のようなプレートからそう察する。


常盤色は深い緑色だ。
カケルがぬいぐるみなどの物を作ったとき、おまじないとして中に入れる紙に書く色と一緒だ。
ないときには単なる緑色で代用してしまうけれど。


こういうとき、自分の外見を急に意識してしまう。
そのおまじないは日本人の本来の外見、黒髪・黒い瞳とは異なる者に引き継がれていくようだ。


先ほどの店主も、そして小井土でさえも、最初はカケルの外見に戸惑ったことだろう。
白髪に近い髪色と琥珀色の瞳。
金髪だったら、まだよかったのかもしれない。
単なるヤンチャな青年としか思われないだろうし。
中村はその特異な外見を「天使のようだ」と褒め称えるけれど、自分はそうは思わない。


「天使が自転車に乗るわきゃねえだろ」


悪態をつきながら、やはり車を買おうと決意だけする。
そして買わないだろうことも、頭の隅のほうで予測している。
なにせ金がないんだから。
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