ユウウコララマハイル
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薄焼き卵、キュウリ、ハムを細切りにして、食べやすい大きさにトマトも切る。
ぐらぐらと煮えてきたお湯に、麺を投げ込んで茹でる。
流水で茹で上がった麺のぬめりを取ってからお皿へ。
そして具材を彩りよく並べる。
これで市販のタレをかければ冷やし中華の完成だ。


なんて簡単なんでしょ。
古沢が作るとしたら、ナツミより倍以上の時間がかかるに違いない。
材料にもタレにもこだわって作る料理は、力を注いだ分だけ美味しいのは確かだが、改良を重ねた市販品だって充分に舌を満足させられるのだ。


定時に古沢が帰ってくる。
古沢はナツミと違って日常生活におけるルーチンワークを乱したくないタイプだ。
長年染みついてしまって今では無意識なのだろうが、靴は右から履いて出かける、歯磨きは左奥歯からするなど、そういった細かいことまで決まっているようだった。
それが少しでも乱れると気持ちわるくなるらしい。


「ただいま」


声とともにドアが開く。
「おかえりー」と横目でそれを流して、冷凍庫から取り出した氷を冷やし中華に数個入れた。


「今日も暑かったね」
「まったくだよ」


古沢から珍しく汗の匂いを感じた。
上司のような加齢臭とは似ても似つかない、フローラルな香りだ。
その芳香漂ううなじに噛みついてやりたいと、意味のわからない嫉妬心がむらむらと込み上げる。


「先にシャワー浴びたらと言いたいところだけど、先にごはんだよね」


俺そんなに臭うかなと古沢が自分の真っ白な腕を嗅ぎ始める。
その肌の白さも女の嫉妬心を煽る要因のひとつだということに、古沢は気づいていない。
古沢は古沢で相当苦労していることを知っているが、一度でいいからその外見に成り代わりたいくらいだ。
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