ユウウコララマハイル
「今日さ、小井土さんってお客さんの家にお邪魔して、洗濯機直したんだ」
「古沢、ついに出張修理サービスすることになったんだね」

お盆明けからの猛暑は連日三十五度を超えている。
もしかしたら盆地だということも関係しているのだとは思うが、そんな中の移動はさぞや辛かったであろう。


「俺も好きで行ったわけじゃねえよ。マスターが小井土さんに押し切られちゃった感じで」
「わかったよ、その小井土さんって人。古沢さ、年齢とか独身とか、訊かれなかった?」


よくわかったなと古沢は眉を上げた。


「小井土って苗字、ここら辺でも珍しいんだよ。それだけでもある程度絞られるんだけど、強引ときたらひとりしかいない」


昼間ランチを一緒にしたアカネの母親に間違いない。


「修理最中に訊かれたよ。独身だと言った途端“いい人はいないの?”って。それがしつこかったから作業にも集中できねえし、白状した振りして“一緒に暮らしている彼女がいる”ってことにしといた。“やっぱりねー”って納得してくれたからよかったけど」


古沢が悪戦苦闘した結果、どうにか洗濯機は回るようになったらしい。


「ややこしくなんなきゃいいんだけど」


なにせ今日娘にも似た話をしているのだ。


「まずかったか?」
「いや、べつに。同居から同棲に変化したのかぁってね」


意地わるく笑ってみせると古沢がうろたえ始める。


「そんなつもりじゃなかった」
「わかってるって、冗談」
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