ユウウコララマハイル
「これなんですけど」


広瀬から差し出されたのは手のひらに乗るくらいのオルゴール。
真四角のプラスチックケースに入っていて、中身が見える。
ぜんまいが横から外に出ていて、そこから回すタイプのものだ。


「音が鳴らなくなってしまったんだって。だからこれを古沢さんに直して欲しいって頼まれたの」
「どうして俺が?」
「園長先生のご指名なの。うちの主人じゃ用が頼りなかったのかしらね」


園長とは「ときわ幼稚園の園長」だそうだ。
広瀬はPTA役員をしていて、そこで園長と親しくなったそうだ。


「俺、オルゴールなんて直したことないですよ」
「直らなかったら諦めるって言っていたわ。だめもとでお願いします、って」


広瀬は頭を下げている。
小動物のような小柄な身体でそれをやると、どうしてもカケルが悪者になったような気分になってくる。


「ほらカケル、千秋特性のいちじくのパウンドケーキあげるから引き受けて」


この味覚えてナツミちゃんに作ってあげたらとにやけ顔でマスターが言ってくる。


どうしてここで中村が出て来るんだよ。


そう思っても声には出せず、出てきたケーキをフォークで刺した。
真智のケーキはやっぱり美味しい。


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