ユウウコララマハイル
中村はごちそうさまと手をあわせた。
いつの間にか中村の皿は空っぽだ。
カケルはまだ半分以上残っている。


「そういえばさ、さっきから気になってたんだけど」


中村の視線はテーブルの左隅だ。
カケルが食べる前に弄っていたオルゴールがそのままの状態で置いてある。
「また修理するの?」と訊かれて頷く。
カケルの口の中がパウンドケーキで風船のように膨れ上がっている。


「このオルゴール―――」


もったいぶったように中村は口を噤んでしまう。
カケルはその続きが気になるけれど、ケーキがまだ嚥下できず苦しい。
じっと見詰めると、中村が嘆息した。


「傷が、ついているのね」


そう言って席を立った。


広瀬から渡されたときには気づかなかったのだけれど、オルゴールの側面にコインで引っかいたような薄く白い傷が、走るようについているのだ。
触ってみるとその凹凸がよくわかる。


中村は席に戻って、カケルに麦茶を差し出した。



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