ユウウコララマハイル
店頭に並ぶ本には賞味期限がある。
「賞味」というのは食品であるから適切ではないと思うが、本も似たようなものだ。
端末で裏表紙のバーコードをスキャンする、そうすると画面にランキングと「平台陳列」「棚差し」「抜き取り」などの言葉が表示される。
「抜き取り」はもちろんランキング圏外の商品でこれを返品に回す。
毎日のように商品が入荷され、その全てが売れるわけではないから、こうして循環をする。
入荷した鮮度のよい本は店に残り、売れずに残る鮮度のわるい本は店からなくなる。
本も食品とほとんど変わらない。


端末機械は画面を見なくても音だけで抜き取る本を教えてくれる。
ピピピピと小鳥が囀るよりも無機質な音が、照明を落とした店内に響いている。
その音に呼応してなのか、ハムスターが回し車を勢いよく回転させる。
兄弟全てにもらい手が見つかり、一匹だけ残ったジャンガリアンハムスター。
全体的に白い毛並みで、背中に黒い線が一本走っていることからパールホワイトという種類であるらしい。
水島は「パールちゃん」と呼んで世話をしている。


深い溜め息を落として、ナツミは首を左右に振った。
自分は飼えないとわかっていても、気になってしまうのだからタチがわるい。


作業に集中できなくなったナツミはバックヤードに向かい、入浴剤つきの文庫本を並べたときに使った、小物二点を持ち出した。
パッチワーク風につぎはぎされたドレスとハイヒール。
パールが齧ったら中に詰めてある綿が出てきそうだと思ったが、古沢が作ったものならご利益がありそうだ。
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