ユウウコララマハイル
預かったほうはネジが錆びているものがあり、潤滑油を塗ってしばらく放置。
その間に新しく買ったオルゴールを分解。
終えると次は預かったほう。
潤滑油のお陰で幾分かスムーズに回るようになった。
そしてそこからシリンダーを取り出し、新品と交換する。


まったく同じ製品ではないし、音を奏でる櫛歯がピンを弾かない恐れもあったけれど、ゼンマイを回してみると音が流れた。
一応、一安心だ。


息を吐いて、時計を見上げる。
時刻は十時を回っている。
八時閉店の中村の書店。
普段ならだいたい九時過ぎに帰ってくる。


今日は遅いのだろうか。


カケルのお腹が鳴った。
空腹が原因かどうかはわからないけれど。


カケルはテーブルの隅に置いた天使の羽根を見やる。
自宅で修理や製作をやる際に置き出してから、失敗することがない。


首を捻りながら自室に戻り、羽根をもとの場所に戻した。
天袋にある衣装ケースの中には人からもらった捨てきれないものが全て放り込んである。


「ただいまー」


溜め息混じりの声が玄関から聞え、カケルは向かった。
買い物袋を預かると、中村が玄関に鍵を閉めた。


「遅くなってごめんね」
「いや、急に頼んでわるかったな」


本来ならカケルが休日のときは夕飯作りをしなくてはならない約束だ。
しかしいつ終わるかわからない修理の最中に、夕飯のことで気を揉みたくない。
家を出る前にカケルは中村にメールをしていた。
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