ユウウコララマハイル
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古沢は一口食べたお弁当に蓋をして、電子レンジに持っていった。
再び席についた古沢は温泉卵に箸を入れて落胆している。
おまかせモードで加熱したお弁当は、プラスチックの蓋をひしゃげたように変形させるくらいだから、温泉卵がゆで卵になったことは容易に想像できる。
割り勘するとききっちり一円単位までそろえる古沢は、ときどきこうして大雑把になる。


「オルゴールってマスターから預かったの?」
「いいや、広瀬さん―――奥さんのほうから。広瀬さんの息子が通う、幼稚園の園長」
「広瀬さんの息子さんて、イッちゃんと同じ幼稚園じゃなかった?」


古沢は「そうそう」と言いながら、額に汗を掻いて食べている。
冷房が利いていない、窓全快の自然風の中で、ナツミはとてもレンジで温める手段を選べない。
冷たくひんやりとしたハンバーグ弁当。
これはこれで美味しい。
変に温めてしまうと、古沢のせいで味覚が贅沢になった舌は満足できそうにない。


「とうとう古沢の修理の腕が園まで届いたってことかー。そりゃすごいね」
「そんなことあるわけないだろ。広瀬さんはPTA役員をやってて、園長と親しくなったんだってさ。それに何ヶ月か前になにかの打ち上げで、うちの店使ってくれたことがあるんだよ。確か、マスターの三人目が産まれる直前くらいじゃなかったかなぁ」
「マスターの叔母さんが厨房に入ってたから、古沢は足手まといになってイッちゃんの世話係だったってときか」
「足手まといとは失礼な」


事実を言ったまでだよとナツミは意地わるく笑う。
古沢はふんと顔を逸らした。


「そうふて腐れるなって。足手まといってことは伸び代が無限大にあるってことだから、ある種の褒め言葉だよ」


どんな反論が待っているかと興味深く見詰めるが、古沢は横を向いたままだった。
素っ気無い態度に、からかい甲斐をなくしてしまう。
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