ユウウコララマハイル
「高校受験のときにもらったお守りなんですけど、なんとなく捨てられなくて社会人になっても持ち歩いていたんです。それがある日破れまして。私不器用だからもうゴミ箱行きでいいかなって思っていたところに古沢が来て直してくれたんですよ。その数日後に高額配当ではなかったですけどクジには当たるし、当時住んでいたアパートの前にコンビニができて利便性はアップするし、尚且つ、ここが最大のラッキーなんですけど、幼い頃からなりたかった書店員への転職話が舞い込んできたんですよね―――まぁ、今の職場ですが。給料が安くなることは確実だったんですけど、残業だらけの日々にはサヨナラできるし、地元にも戻れるし、万々歳で即決でした」



*・゚・*:.。.*.。.:*・☆*・゚・*:.。.*.。.:*・


うわっ今日もかぁ。
前々からわかってたけど、うちの会社絶対ブラックだよ。


日付が変わろうとしている。
今日で連続五日目だ。
開発フロアの半分以上の席はまだパソコンに向かっている。
そこにはレディーファーストという言葉は存在しない。


同期で入社した開発組は今やナツミと古沢のふたりしかいない。
残りの四人は全員退職をしている。


企業向け経理ソフトのバージョンアップ製品が来月発売される。


それを知らされたのは一週間前だ。
社長がライバル社に立ち向かうように公言してしまったらしい。
現段階では草案程度のものを来月の、一ヵ月後に発売する。
その間にソフト開発はもちろんのこと、製品テストをしなければならないだろうし、商品化し取引企業に送付しなくてもならない。
業界専門だから一般発売がないのが唯一の救いだが、開発部は残り一週間でソフトを作り終わらなくてはならないのだ。
もちろん休日返上で、「俺は今朝四時に家に着いたよ」「寝たの三時間」などが自慢になる職場だ。
相当病んでいる。
病んでいると気づいている時点で自分の人格はまだ正常だなと嘆息が漏れる。
< 34 / 137 >

この作品をシェア

pagetop