ユウウコララマハイル
ナツミはスラックスの後ろポケットから「合格祈願」と書かれたお守りを取り出した。
それは手垢や埃で黒く変色している部分もあり、白だった生地にご利益は感じられない。

朱色の紐が切れていたのは数日前に気づいていたが、まさか今日―――日付が変わっているので昨日になるが、お守り袋の横が解れるようにして切れるなんて思わなかった。
その肝心の中身は、途中でどこかに落としてしまったのか、見当たらない。


こんなの単なるゴミだね、もう。


このお守りは高校受験のとき、友人に「同じ高校に合格できればいいね」と渡されたものだ。
渡した本人は受験の数日前に交通事故に遭ってしまい、ナツミだけ試験を受け合格し、入学した。
それ以来その友人には会っていないが、幼馴染みの情報によると何年か前に結婚してよいパパになっているらしい。


どうしてこんなにも長く持ち歩いていたのか、自分のことなのにわからない。


フロアに響いていたひとり分の、キーボードを叩く音が不意にやんだ。
古沢がじっとこちらを見ている。


「直してやろうか?」


意味がわからなくて、「はぁ?」と挑発するような疑問符を古沢に投げてしまった。
< 37 / 137 >

この作品をシェア

pagetop