ユウウコララマハイル
「お守りが休み明けに戻ってきたんですよ、修繕されて。解れたところが手術痕のように痛々しそうでしたけど。実は今も持っているんです」


バッグからそのお守りを取り出す。
当時よりも生地全体の黄ばみが増し、修繕痕は手垢で黒くなってしまっている。
久しぶりにそれを見た古沢があとで直してやると大袈裟な溜息をつく中、ナツミはゆっくりとお守りの紐を緩めた。


「今じゃなんだか普通のお守りと相違ない感じですけど、当時はかまぼこの匂いがしていました」


木札も古沢の手製。
かまぼこ板を薄く切って、その上に文字を書いた。


「これ、似てません?」


栞の裏面の隅にも文字が書かれている。
そして木札の悪筆を隣に並べてみる。


「本当だね。明らかに両方とも梵字ではないみたいだし、書体が似てる」
「でしょう。書いてある言葉は違うと思いますけどね。因みに私のほうには“オムウタウロウワ”って書いてあるそうです。意味は“身体を大切に”」


やはりこの話題に触れて欲しくない古沢の顔はむっつりしていて、文字にそっぽを向いている。
それでもナツミは容赦なく「こっちは?」とテーブルを叩く。
お客さんの手前邪険にできない古沢はちらりと栞の文字を窺い、素っ気無く答えた。


「“シズミクク”―――意味は“元気が出る”。おそらくハルさんは“元気が出ますように”と祈って書いたんだろうな」
「じゃあ古沢は“身体を大切にしてください”って、私のことを思って書いたってことだよね?」


からかい半分で訊いてみたものの「うるせえよ」と古沢は顔を逸らすだけだった。


「ハルさんもそうですけど、古沢にはこういった物を作る資格のようなものがあるみたいなんです。ハルさんが作った物とは別物になってしまうかもしれませんけど、それでよかったら古沢に作らせますよ」


本人の承諾を得ないまま、おばあさんはたんぽぽのように柔らかく微笑んで頷いた。

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