ユウウコララマハイル
橋がなければ対岸の市内まで辿りつけない。
ただこの橋が、長い。
神戸市から淡路島まで繋ぐ明石海峡大橋よりも短いし、港区と芝浦を繋ぐレインボーブリッチよりも明らかに短いが、確かに長い全長五三〇メートルの吊り橋。
この橋は対岸同士の高低差があるものだから、滑り台のような傾斜になっている。
車でその坂部分を上るなら緩やかに違いないが、古沢のように自転車となると難しい。
地元の運動部でも上りきるのが奇跡という角度と長さを前に、体力も下り坂のような古沢は当然自転車を押して歩いていた。


上りが緩やかでも、下りではスピードが乗る。


ユーターンを考える間にもう橋を渡りきってしまった。
目前にショッピングモールが迫っている。
ショッピングモールと言っても、店舗はホームセンターとスーパーとドラッグストアしかないが。


考えるもなにも、ユーターンはそこしかない。


着いてしまったからには買い物をしよう。
目的のものはひとつだけだから、レジが空いていれば五分もかからない。


古沢とすれ違ったのは橋の中腹付近。
古沢が不慮の事態で転倒すれば間にあうかもしれない。
なにせふたりが住むアパートは向こう岸のすぐ傍だ。


ただ、不慮の事態が早々起きるはずもない。
その上他人の不運を願うなんてなんてことだ。


「まぁ、バレてしまうのは仕方がないし」


ナツミは溜息をつきながらホームセンターに一番近い駐車スペースに愛車を止めた。


< 6 / 137 >

この作品をシェア

pagetop