ユウウコララマハイル
中村の部屋は樹海並に小説やコミック、雑誌が入り込んでいる。
要するにめちゃくちゃだ。
面白そうなコミックを順調に五巻まで読み進める。
その巻で完結だと思ったら、どうやら続きがあるらしい。
中村の机上に八巻を発見する。
では間の六・七巻は? 
続きが気になって仕方がないため、本棚はもちろんのこと、机の引き出し、ベッドの下、クローゼットの中を探して目的を達成する。
カケルはその過程で樹海から、植林地くらいまで本を整頓させている。
もとのように荒らすことは不可能だからだ。
それゆえ中村は、カケルが部屋に無断で入ることを快く思っている。


中村は容姿とはかけ離れたくらいに部屋が汚い。
三年前まで同じ都内の職場で働いていたけれど、その当時の部下たちもころっと騙されていた。
美人で仕事ができて、性格もいい。
中村に尊敬の眼差しを向ける部下も多かった。
やはりそんなのは幻想で、実態はこんなものだ。
本気で結婚したいと思った後輩に「よかったな、こんな不良物件もらわなくて」と心から握手ができる。


ただ小憎たらしいことに、中村は決して家事ができないわけではない。
自分のあの樹海のような部屋以外は綺麗にしていて、炊事・洗濯も滞りなくできる。
カケルが引っ越してきた当初の食事はほぼ中村が作っていたし、今でも洗濯は中村の当番だ。
その上定期的にカケルの布団が干してあることもあって、そんなにマメにできるなら自分の部屋も綺麗にしろと毎回指摘する。
ただ中村いわく、


「え? 無理」


らしい。
どうして無理なのかカケルには理解できないけれど、仕事とプライベートのオンオフのスイッチが常人より見事にはっきりわかれている、と思うようにしている。
それが自分の部屋に入るその一瞬で切り替わると。
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