ユウウコララマハイル
「化粧はしてないよ。リボンの色が明るいから、頬っぺがそう見えるんだと思う」


ぬいぐるみの首元に赤いリボンが巻かれ、結び目は花のようになっている。


「パンは生まれ変わったんだ。だからその誕生祝い。ハルさんと同じものを俺は作れないから」
「じゃあ、べつなの? パンちゃんじゃないの?」


緑色の瞳が左右に、小刻みに揺れている。
涙が出る前兆だということが、カケルにもわかる。
近距離で見たイツキの顔。
イツキの目の下はうっすらと隈ができていて、白い肌がさらに透き通るように白かった。


「パンはパンだけど、新しいパンになったんだよ。NEWパンってところかな」
「よくわかんない」
「ごめんな。俺、説明が下手で」


 不器用ながらも、カケルは安心させるように笑いかける。


「イツキはさ、幼稚園辛い?」
「ううん、つらくない。でも、パンちゃんがいなくなったら、いやなことがいっぱいあったの」
「いっぱい?」
「うん、イツキわるいことしてないのに、せんせいにおこられたり。リレーのれんしゅうでバトンをおとしたりしちゃったの。それでね、クラスのみんなにめいわくかけちゃった。ほかにもいっぱいあるんだよ」


マスターの話では幼稚園で過ごすイツキは、控えめで内気なのだそうだ。
自己主張が苦手で、隅っこのほうにいつもいるらしい。
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