〈BL〉一時の幸福(しあわせ)〈短編〉
「陽加、起きろ」

どうやら、ソファーで
寝てしまったようだ。

『お帰り、顕正』

目を擦りながら起き上がる。

「何で此処にいる」

少々、怒り口調で言われた。

『居ちゃいけないのかよ‼

そうかよ、悪かっな‼』

俺はバッグから二本の鍵が
付いたキーホルダーからマンションの鍵を
外して顕正に投げつけた。

『まさか、家にも上げたくない程
嫌われたとは思いもしなかった

どうせ、俺は穢れてるさ』

玄関のドアを思いっきり閉めた。

近所迷惑とか考える余裕はない。

あの鍵は宝物だった。

恋人になれた証みたいで。

あの日、俺がマワされたり
しなければこんな事に
ならなかったんだろうなぁ……

それとも、ばか正直に
話さないで体調が
悪くなったとでも
言えばよかったんだろうか……

俺は早足で家に向かった。

一本になった鍵で
中に入ると母さんたちは
まだ帰って来ていなかった。

ムカついて帰ってきたが
時計はまだ午後五時に
なったばかりだったらしい。

九時頃になって
母さんたちが帰って来たが
俺は部屋に籠り、布団を
被り、声を殺して泣いた。

多分、顕正は連絡してこないだろう。

‡‡‡数年後‡‡‡

「陽加君、悪いんだけど
こっちも手伝ってくれる?」

俺はあの街を出た。

『は~い、今行きます』

今は叔母の所に
住まわせてもらっている。

顕正が結婚したことは
母さんのメールで知った。

これでよかったんだろう。

俺はいまだに
独り身だけど寂しくはない。
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