気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
「ちょっと考え事してただけ」
「そう? なんか運転に必死って感じだったけど」
「大切な後輩を乗せてるから安全運転してるの!」

 エアコンの効いた快適な車内なのに、ハンドルを握る手が汗をかきそうだ。レストランの駐車場にバックで無事駐車し終えたときには、思わず手の甲で額の汗を拭ってしまった。

「俺のためにわざわざ安全運転してくれてありがとう。本当はもっと飛ばし屋だったりして?」

 透也にニヤニヤしながら言われて、凜香はそっけなく言う。

「そんなわけないでしょ」

(私をからかって楽しい?)

 ムッとしつつも、これ以上素の自分を悟られないよう気を引き締めながら、車を降りてレストランの入り口へと向かった。だが、透也がドアを開けたまま一歩下がったので、凜香は瞬きをした。

「何?」
「何って……お先にどうぞ」

(しまった! 相手は〝女性に慣れてる感〟満載なのに、これじゃ〝男性に慣れてない感〟丸出しじゃないの!)

 思わぬレディ・ファーストに不意打ちを食らったなんて気づかれないよう、凜香はつんと澄まして当然のごとく中へ入った。
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