気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
「どうもありがとう」
「どういたしまして」

 そう言った彼の声に笑みが含まれているように感じたが、凜香は、気のせいだと呪文のように頭の中で唱えた。

 ランチタイムの混み合う時間より少し早かったため、すぐに席に案内され、二人でオススメのコースとオレンジジュースを注文した。

「雰囲気のいい店だね」

 注文の品が運ばれてくる間、透也が店内をチラリと見て言った。出窓には花が飾られ、レースのカーテン越しに初夏の日差しが差し込んでくる。店内のライトブラウンのテーブルも椅子も明るく、デートにはもってこいだ。

 そう思ったとき、また康人のことを思い出してしまった。彼が現在、品質管理責任者として働いているトーヨーモーターは、車のパワーウィンドウやプラモデルなどのおもちゃに使われる中型・小型モーターのメーカーで、凜香の働く企画開発部の取引先でもある。姉の幼馴染みである彼は、今でも凜香のことを妹のようにかわいがってくれている。

(そう、最初から最後まで、本当にただの妹だったんだけど)
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