気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
 彼は、今みたいに周囲の期待を受けて〝できる女〟を気取る凜香ではなく、中学、高校とバレーボールに明け暮れていたセミショートの彼女も知っている。そんな康人に、凜香は大学二回生のときこの店に連れてきてもらった。デートだと思って喜んだのも束の間、その日、彼に「涼香ちゃんと好きな男の話とかする? 涼香ちゃんが僕のこと……どう思ってるかとか……知らないかな」と訊かれたのだ。凜香が失恋した瞬間である。その後、姉と付き合い始めた康人に誘われ、何度か三人で食べに来たこともある。

「デートでよく来るの?」

 透也の声で、凜香は思い出の世界から現実の世界へと引き戻された。

「え? ああ、うん、まあ」

(最後に三人で来てから七年経ってるけど、それまではよく来たもんね)

「ふうん」

 透也が答えたとき、前菜のホタテのカルパッチョが運ばれてきた。オレンジジュースのグラスを軽く持ち上げて、形だけ乾杯をする。

(さすがに社長の次男なら高級食材を食べ慣れてそうだけど、どうかな)

 凜香はドキドキしながら見ていたが、透也は一口食べて目元をほころばせた。

「さすがに凜香お勧めのレストランだけあって、新鮮でうまいな」
< 18 / 91 >

この作品をシェア

pagetop