気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
「何言って……」
「凜香は恋人のことをどう呼ぶの?」
「ど、どうって……」

 いきなり話題を変えられて、凜香は返答に困ってしまった。

(元彼のことは名字で呼んでたし、康人さんのことは子どもの頃は〝康人くん〟で、お姉ちゃんと結婚してからは〝康人さん〟って呼んでるし……)

 恋人になれたら呼び捨てにしてたのかな、いや、でも、お姉ちゃんも〝康人くん〟って呼んでるし。そんなことを思っているうちに、凜香はカプチーノを、透也はエスプレッソを飲み終わっていた。

「とにかく今日は恋人とのデートだと思ってさ、普段通りにしてよ」
「まあ……そうね」

(こうなったら開き直った方が楽か)

 透也、透也、透也、と頭の中で呼ぶ練習をしていると、当の彼が言った。

「で、仕切り屋の凜香は、次はどこへ連れて行ってくれるんだ? 普段の凜香がこんな天気のいい午後どこで過ごすのか、すごく気になる」

 凜香は一度咳払いをしてから言う。

「残念だけど、私はいつだって仕事のことしか考えてないの」
「マジで? デート中も?」
「そうよ。じゃ、そろそろ行きましょう」

 凜香が手を伸ばすより早く、透也が伝票を取り上げた。
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