気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
「そうよ。何を考えてるのかわからない」

 それは凜香をデートに誘ったことを言っているのだが、透也は違うことだと捉えたようだ。

「そうだよな。子ども向け雑誌の付録にミミズを入れろなんて言うバカな御曹司は、理解不能だよな」

 透也がチノパンのポケットに手を突っ込み、凜香に背を向けて歩き出した。その背中はふてくされているように見える。

「企画については理解不能とは思ってないわ」

 凜香はゆっくりと透也の後を追った。港に停泊中の白い帆船の方へと向かう彼の背中に話しかける。

「生ゴミが堆肥に変わる過程を勉強するにはとてもいいと思うわ。でも、生き物は付録にできないし、コンポスト作りのために読者に自分でミミズを探してもらうわけにもいかないでしょう?」

 透也が急に立ち止まったので、凜香は彼の広い背中に顔をぶつけそうになった。すんでの所で足を止める。

「そうか」
「そうよ。ただ、雑誌の特集で取り上げて、写真付きで紹介するならいいアイディアだと思うって課長には言っておいた」

 凜香は透也の横に立って、彼の視線の先を眺めた。海は淀んだ紺色をしているが、沈みかけた日の光を受けて、水面でオレンジがかった光がキラキラと踊っている。
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