気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
「透也くんって、いつも目の付け所は新鮮なのよね。でも、うちの出している『こどもサイエンス』も『ふしぎ発見・冒険キッズ』も子ども向けの科学雑誌だけど、買うのはだいたいお母さんかお父さんでしょ。いくら子どもが欲しがっても、〝ミミズはイヤだ〟って思ったらお母さんは買ってはくれないわ」

 凜香が言うと、透也は黙り込んでしまった。

(やっぱり社長の息子だし、私がいくら年上でも他人に意見されるのは嫌だったかな)

 凜香に対してよそよそしい先輩社員のことを思い浮かべた。社会人経験の長い彼らにさえ距離を置かれているのに、ましてや透也は年下だ。

(もっとやんわりと言えばかったかな……)

 後悔先に立たずだ。沈黙が居心地悪い。

「そろそろ帰ろっか。送っていくわ」

 凜香が促すように一歩足を踏み出したが、透也は動かなかった。水面を見つめたまま、ボソッと言う。

「まだ帰りたくない」
「あのね……」

 凜香は呆れて両手を腰に当てて続ける。
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