気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
「そういうのは普通、夫の仕事じゃないか?」
「あ、そっか。そうよね」

 凜香が恥ずかしそうに笑った。頬が薄紅に染まって見えるのは、チークのせいではないだろう。

「凜香もそんなふうに笑うんだね」

 透也が指摘した瞬間、凜香の顔から嘘のようにすっと笑みが消えた。

「せっかくの料理が冷めちゃうわ。いただきましょ」

 事務的に言われて、透也は考え込む。

(今日一日一緒にいたけど、やっぱり凜香ってよくわからないな)

 凜香はレストランにいるとき同様、きちんとナイフとフォークを使って食事をしている。その姿勢の美しさは、オフィスのデスクでパソコンと向き合っているときと同じだ。

(隙のないクール・ビューティ)

 その仮面を剥がしたい。

 とはいえ、笑顔のことに触れてからよそよそしい態度を取る彼女をどう口説いたものか。

「片付けは手伝うわね」

 食事を終えた凜香がそそくさと席を立ったので、透也は立ち上がって彼女の行く手をふさいだ。

「あとで俺がやるからいい」
「そういうわけにはいかないわ。ごちそうになりっぱなしじゃ……」
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