気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
 皿を取り上げようとする凜香の手に、透也は自分の手を重ねた。驚いて引っ込めようとする彼女の手を握って彼の口元に近づける。

「キミのきれいな手が荒れてしまうよ」

 凜香の指先に自分の唇を触れさせようとした瞬間、彼女がさっと手を引き抜いた。

「それじゃ、後片付けはお願いするわねっ。私、明日は朝から用があるから、今日はこれで失礼するわっ。ごちそうさまっ。ありがと! また会社でねっ」

 早口でそれだけ言って、凜香はソファの上に置いていたバッグをさっと取り上げ、玄関へと急ぐ。

「凜香」

 呆気にとられていた透也がようやく我に返って声をかけたときには、彼女の姿は部屋の中にはなかった。

(マジかよ……帰ってったぞ……。さすがに一筋縄ではいかないか……。でも、明日は朝から用があるって言ってたよな。それで凜香の秘密がわかるかもしれない)

 透也はニヤッと笑い、凜香の温もりが消えた手でギュッと拳を握った。
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