気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
「あ、もう終わりました?」

 そう言ってニヤッとされ、凜香は動揺を隠せずに言う。

「お、終わりましたって……?」
「びっくりしましたよ。七瀬さんでもあんな声を出すんですね」
「盗み聞きするなんてひどいわ」

 凜香は咎めるような口調で言ったが、透也は涼しげな表情で言う。

「俺の方が先にここに来て寝てたんです。七瀬さんはそれに気づかずに勝手に始めたんでしょ? 俺だって聞きたくて聞いたんじゃない」

 透也の言葉に凜香は絶句した。大好きなトリュフを口に含み、その口溶けを味わう至福のひととき。そのときだけは凜香は素の自分でいられる。成功して当然の企画を求められることも、ワガママな企画ばかり立案する部下に悩まされることも、甘えてばかりの女子社員に内心腹を立てることも、この時間だけは忘れられるのだ。

「誰にも……言わないでくれるわよね?」

 凜香はおずおずと言った。トリュフを食べてあんな声を出していたなんてみんなに知られたら、恥ずかしくてもう会社に来られない。

「どうしようかなぁ……」
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