気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
「がんばれー!」

 凜香と康人が見守るなか、成実は五メートルほど進んだが、バランスを崩して両足を地面についた。

「すごいね、こんなに進めたじゃない!」

 凜香が駆け寄ると、成実が凜香を見上げて不満そうに言う。

「この曲、〝アナと雪の女王〟のじゃない」
「ああ、〝レット・イット・ゴー〟ね。あの曲でも試してみたんだけど、合わせてペダルを漕ぐにはテンポが遅いのよ。上手に乗れるようになったら、〝レット・イット・ゴー〟のオルゴールもつくってあげる」
「ホント?」
「うん、約束」

 凜香が伸ばした小指に、姪の小さな小指が絡められた。

「指切りげんまん」

 成実が歌いながら凜香の指を揺らす。

(かわいいなぁ)

 凜香が目を細めたとき、グラウンドの方から成樹の呼ぶ声がした。

「凜ちゃん、来たんならキーパーしてぇ! 一人足りないんだ!」
「オッケー!」

 凜香はグラウンドに向かって手を振ると、両手を膝について成実と目の高さを合わせた。

「お父さんと練習がんばれそう?」
「うん」
「じゃあ、凜ちゃんは成樹くんたちとサッカーしてるから、オルゴールがおかしくなったりしたら呼んでね」
< 42 / 91 >

この作品をシェア

pagetop