気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
 透也がわざとらしく考え込むようにしながら言う。その甘い顔に似合わない不敵な笑みは、彼が〝猫系御曹司〟と言われるゆえんだ。気まぐれでワガママで、つかみ所がない。

「きょ、今日の晩ご飯を奢るっていうのはどうかな?」

 凜香は必死に聞こえないように努めて落ち着いた声を出そうとした。だが、焦っているのは透也にはわかったらしい。彼のニヤニヤ笑いが大きくなる。

「それじゃあまりに安すぎますよね」
「じゃあ……今日と明日の土曜の二日分ではどう?」
「どうしようかなぁ……」
「足元を見る気ね。それじゃ、三日分は?」
「うーん、こういうのって金で解決できる問題じゃないですよね?」
「何が……望みなの?」

(まさか体で払えとか言わないわよね?)

 さすがの凜香も、もう表情を繕えなくなってきた。透也が立ち上がって雑誌を丸めて持ち、腰に両手を当てた。身長一六九センチの凜香は、十センチヒールを履けばたいていの男子社員を見下ろせてしまう。だが、透也の方がまだ少し凜香よりも高い。

「明日の土曜日、俺とデートしましょう」
「は?」

 凜香はぱちくりと瞬きをした。
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