気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
「やだね。絶対俺が食う。ほかのやつにはやらない」

 透也の言葉に戸惑っていると、左側から康人がニコニコしながら話しかけてきた。

「へえ、凜香ちゃん、料理の腕を上げたんだね」
「え、そ、そんなことない……と思うけどな」
「凜香ちゃんは昔から工作が得意だったもんね。料理だってコツをつかめばすぐ上手になるんじゃない? おもちゃだって小さい頃から分解したりしてたから、作れるようになったんだよ」
「分解?」

 透也の問いかけに康人が答える。

「そういうのって普通、男の子の方が好きだって言うのにね。それに、僕、トーヨーモーターで働いているんだけどね、凜香ちゃんってば一度モーターを作らせてほしいってつなぎ姿で工場に来たこともあるんだよ」
「へえ、そうなんですか」

 透也がおもしろがるような表情で凜香を見た。

(あー、もう、康人さんってば……私のイメージ、壊さないでよ……)

 凜香は思わず膨らませてしまった頬を隠そうと両手で押さえた。

「なんだか凜香のことが少しわかった気がする」

 透也に言われて、凜香は彼の方を見ずに言う。
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