気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
「あいたたた……やっちゃった。ごめん、透也くん」

 凜香は笑いながら立ち上がったが、透也に二の腕をつかまれた。

「な、何?」
「肘、すりむいてる」
「え?」

 腕をひねって傷を見ようとしたが、透也に二の腕をつかまれているのでよく見えない。

「ちょっと痛むけど、大丈夫、こんなの舐めとけば治るわ」

 凜香は透也の手から逃れようとしたが、彼は手を離してくれなかった。

「ちゃんと洗わないとダメだ」

 透也はそう言って、凜香の腕を引っ張ったままドッジボールのコートの外へと向かう。

「大丈夫だってば」
「ダメだ」

 凜香にキッパリと言って、透也は子どもたちに「ちょっと抜けるよ」と声をかけ、グラウンドの外れの木陰にある手洗い場へと向かった。

「こんなことしょっちゅうなんだから……」

 凜香は不満そうに言ったが、透也は構うことなく水道の蛇口をひねって凜香の肘に水を浴びせかける。

「冷たっ」
「しみるだろ」
「まあね」

 確かにちりちりとした刺激を感じる。結構派手にすりむいたのかな、と思ったとき、透也が水を止め、ハンカチでそっと拭いてくれた。
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