気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
 透也の返事を聞いて、凜香は思わず彼の顔を見た。

「失礼ねっ」
「いい意味で言ったんだ」
「えっ」
「俺、いつも不思議だったんだ。独身で子どものいないはずの凜香が、どうしていつもあんなに子ども心をつかむ商品を企画できるんだろうって。会社で見る凜香はいつも隙がないほどかっこいい。スーツをビシッと着こなし、デスクには必要最低限の文房具とパソコンだけ。いったいどんな秘密があるんだろうと思って……ずっと気になってた。凜香の秘密が知りたいと思ってたんだ」
「じゃあ、今日は朝から私を尾行した甲斐があったって訳ね。子どもと一緒に汗をかいて笑って転んですりむいて……。それが素顔の私」
「Tシャツにスニーカーの凜香もステキだよ」
「そんなわけ……」

 凜香が言いかけたとき、透也が長い睫毛を伏せて顔を傾けた。

「身長差が開いてキスしやすくなる」
「透也……くん」

 彼の唇が近づき、凜香の唇に熱い息がかかる。背筋がゾクリとした瞬間、背後から涼香の声が聞こえてきた。

「大丈夫ぅ? 私、絆創膏持ってる……」

 透也の動きが止まると同時に、涼香の声も途切れた。凜香はあわてて振り向いて言う。
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