気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
「え、あ、うん、絆創膏っ、ちょうだい」

 凜香が手を差し出すより早く、透也が涼香に近づいた。

「俺が貼ります」
「そ、そうね。よろしく……」

 涼香がわざとらしい笑い声を上げ、透也に絆創膏を渡してそそくさとその場を離れていく。残された凜香は気まずい思いでチラリと透也を見た。

(どういうつもりで私にキスしようとしたの……?)

 涼香が来なければ、凜香は間違いなく彼のキスを受け入れていた。今まで眼中になかった問題児なのに、彼の言葉にドキドキして、その唇を待ちわびていた。

(やだ、私……どうしちゃったの)

 透也が凜香の肘に絆創膏を貼ってくれた。彼の指先が触れた肌が火傷したみたいに熱い。

(でも、透也くんの目的は私のアイディアの源泉を探ることだった……。それがわかったのに、どうして……?)

 凜香の視線を受けて、透也が何事もなかったかのように小さく笑って言う。

「もう戻ろう」
「そうね」

 込み上げてくる寂しさをどうしても抑えられず、自分の感情がコントロールできないことにドキリとした。
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