王子様、拾いました。
振り返ると、こっちへ向かって手を振っている藍ちゃん。
……それと、それを横で見ている長谷部くんの姿があった。
ふたりは笑顔で近づいてきた。
「今日はどうしたの?」
「友達がチケットもらったからって、映画観に来てたの。藍ちゃんは?」
「私たちはもうすぐ両親の結婚記念日だから、プレゼントを探しに。ね?」
藍ちゃんの言葉にうなずく長谷部くん。
「真白ちゃんとは、蒼くんの大学でしか会わないから、こんなとこで会えるなんて嬉しいなあ」
「ホントだね」
他愛のない話をする私と藍ちゃんの横で。
クロはなんだか不機嫌オーラを醸し出しているし。
長谷部くんは時間を気にしているようで、何度も腕時計を見つめていた。
「蒼くん、大丈夫?」
「うん。あともうちょっとは」
「長谷部くん、何か用事でもあるの?」
私の問いかけに、苦笑いを零す長谷部くん。
「急に教授に呼び出されて。大学に戻らなくちゃいけないんだ」
「ホントに柳澤教授に信頼されているんだねぇ」
「っていうか、僕のこと昔から知っているし、一緒に動きやすいだけだと思うよ」
照れくさそうに頭をかく姿に、胸がキュン、と鳴る。
「蒼くん。ちぃちゃんが来るの一緒に待ってなくても大丈夫だよ」
ちぃちゃん。
藍ちゃんから紡がれたその名前に、キュンとしていた胸がざわめく。
私は会ったことがないけれど、長谷部くんからも藍ちゃんからも時々聞く名前。
藍ちゃんの中学時代からの友人で。
もちろん、長谷部くんとも同級生。
「でも、ちぃちゃんもうすぐ来るって言ってたんでしょ? だったら、藍ちゃんがちゃんと会えたのを見届けてから大学に向かうよ。陽向くんだってわかってくれるから」
心配しないで、と藍ちゃんに笑顔を向ける長谷部くん。
「あ、ほら。ちぃちゃん来たよ」
長谷部くんが手を振る方向を振り返ると。
「蒼くん、藍っ。遅くなってごめーん」
スラリとした、ショートカットの美人な女の子が、こっちに向かって駆け寄ってきた。