王子様、拾いました。
「藍ちゃん、私次で降りるから」
次の降車駅を告げるアナウンスが流れ、藍ちゃんに別れを告げると、少しだけ藍ちゃんの表情が曇った。
「私、今からバイトなんだ」
「そ、そうなんだ……」
「藍ちゃんが降りるのは、その次の駅だよね?」
だから、もう大丈夫でしょ?
そんな思いを込めて見つめると、藍ちゃんはコクリとうなずいた。
「じゃあ、またね」
「うん。バイバイ」
藍ちゃんに手を振って、私はバイト先へと急いだのだった。
バイトを終えてスマホを見ると、不在着信が入っていた。
発信者の名前は、長谷部くん。
初めて見る長谷部くんの着信に、胸がドキリと高まる。
多分、今日の藍ちゃんとの買い物のお礼でも言おうとしたんだろうな。
期待は厳禁。
そう自分に言い聞かせて、長谷部くんの番号をダイヤルした。
トゥルル……
「はい」
何度目かの呼び出し音の後、周りに気を遣っているような小さな声で返事があった。
「もしもし、長谷部くん?」
「ああ、宇高さん」
「ごめん。バイト中で電話に出られなかったんだけど」
長谷部くんからの返事はない。
「長谷部くん?」
「……あ、ごめん」
何か気になっている様子の長谷部くん。
私の呼びかけにもちょっとだけ元気がないような感じがする。
一体どうしたんだろう?
思いきって、どうしたのって問いかけてみようかなと思ったその時。
沈黙は破られた。