惹かれる心と放つ想い
長かったように感じた。

先輩の雰囲気に飲み込まれるように見入ってしまった。

矢を放った後腕を広げ、一呼吸、それを横の骨盤辺りに持って行き、一呼吸し、戻って来た。

先輩は深い瞬きをすると弓を引いてた時とは変わりさっきの優しい雰囲気に戻った。

4つ矢は的を貫いていた。


「やっぱ照れるな…
これが山岸さんのいうプレッシャーか」

「・・・」

「あれ?おーーーーーーーい!!」

「・・・え?あ!すいません!」


やっと戻ってこれたそんな気分だった。
なにから戻ったと言われれば謎だが、とにかく戻ってこれた。


「どしたの?大丈夫?」

「はい、大丈夫です…」

「そんな心ここにあらず状態で言われてもなぁ~
あはは、ちょっと矢取ってくるね」

先輩はそう言ってグローブのような物を外し的のもとへ行った。


凄かった、出入り口から見た姿よりもなん十倍も凄かった。

雰囲気で持ってかれてしまった。

釘付けにならざるおえないほど
力強く、柔軟で、そして輝いて見えた。




"俺は気がつけば先輩に憧れていた"






弓道ではなく、先輩のする弓道に憧れていたのだ。


「お待たせ~休憩入れていい?」

「はい、どうぞどうぞ」

そう言って矢を拭き、それを終えた先輩は自分の記録を眺めながら話をする。


「どうだった?始めてみる弓道は」

「圧巻って感じでした」

「え?圧巻?私怖かった?」

「ああ、いえいえ、雰囲気に飲まれたというか、眼が離せなかったというか」

「え?視姦趣味?」

「なんでそうなるんですか!!
しかも女性が視姦なんて言葉あんま使わない方がいいですよ!!」

「はははははは、冗談だよ、それに女子の方がそういうの詳しかったりするよ~」

「なんの話っすか」

ああ、先輩は雰囲気を作るのが得意なんだと感じた瞬間だった。
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