SECOND プリキス!!
「馬鹿灰音。此処に彼女を連れてくるのならちゃんと説明して来るべきです。此処は普通の場所じゃなくて……不良共の溜まり場なんですから、怖いに決まっているでしょう?」
「……俺、初伊に説明してなかった?」
いつもより、少し怒気の篭った先輩の一言に、灰音は顔をこわばらせた。
そして恐る恐る私に聞いたけど……ええと、はい。
「出来ることなら詳しく説明してほしいかな……」
でも、何となく、予想はついていた。
男の子なのに女装する所とか、デザイン画を書くところとか、何よりもこの部屋。
布に満ち溢れたこの部屋を見たら、灰音はデザインとか服飾系の仕事に就きたいのかなぁって。
コンクールとかがあるのかなぁって。
だから───“その答え”が返ってきた時は、思わず「は……?」と声を洩らしてしまったんだ。
───「パリコレのさぁ、デザインが決まらなくて。初伊にモデルになってほしかったんだよ……。」
「は……?」
「ごめんね、本当。俺の悪い癖。集中しすぎると、周りが見えなくなるっていつも天に言われてんのに……」
「ちょ……ちょっと待って?!」
今、明らかにおかしな言葉が聞こえた。
それをスルーして謝罪を始めた灰音の言葉を遮る。
「何……何パリコレって。」
「ああ、パリ・オートクチュール・コレクションの方。プレタポルテ・コレクションじゃない方ね。プレタポルテは俺担当じゃないから。」
パリ・オートクチュール・コレクション
世界のファッションの最高峰のショー。
既製品で着飾るプレタポルテコレクションとは違い、1点もの、世界で一つだけのドレスでランウェイを歩くショーだ。
……そこじゃない。
パリコレがどうとかそうじゃなくて、私が聞きたいのは……
「……灰音さん、何者?」
言ってなかったっけ?と。
きょとんとした顔で告げられるは、驚愕の言葉。
「CIEL in Londonチーフデザイナー、ハイネ・ハルセ。これが俺の肩書きね。」
受け取ったのは、朱色の花が散りばめられた、和紙で出来た名刺。
“Heine.H chief designer ”と炭で書かれたものだ。
ちゃっかり、シエルの紋章であるウィングまであるし。
タチの悪い冗談!と笑い飛ばそうとしたけれど……出来なかったのだ。
何故なら、思い出してしまったから。
前にシエルのデザイナーさんに会ったときに言われた事。
デザイナーのお姉さんの、レースで飾られた素敵すぎる名刺を褒めると、“デザイナーの名刺は生まれた国の特産品で飾るのがルールなの”と言っていた事。
そして。
『私達のトップは和紙を使っていてね、それを見てから私、和紙が大好きになったの!貴方の国のでしょう?』
この世で一番素敵なブランドの、チーフデザイナー?
シエルのドレスは、灰音の手から出来てるってこと?
───ああ、気が遠くなる。
「ちょっ、初伊?!」
灰音の、焦る声。
「どうしたの?!」なんて聞こえたけれど、それはないよ灰音さん。
自分があのシエルの、衣装のモデルにされてたなんて……
死ぬ。