SECOND プリキス!!




「あと3着、彼女を使ってデザインするとしたら、どれくらいかかります?」

「え?えーと、しっかり、ガッツリ時間掛けて作りたいから……デザインに5日。実際に作ってみて布の広がりも確認したいから……通して2週間あったら最高。だけどそれが何?」




何食わぬ顔をして告げるそれは、“奇跡”であると彼は知らない。

私は本当に、“天才”という言葉でしか彼を語れない。

そんな天才の紡ぎ出す奇跡を、一番近くで見たい───

だって面白そうじゃないですか。




「もしもし、私ですが。北の倉庫の上にお願いします。」



気が付けば、電話をしていた。


「天?」

「これからすぐに、北原の所有するジェットが来ます。」

「……はぁ?!」

「向かうはロンドンの君のアトリエ。行って帰って来て二週間。だから実質、二週間まるまる時間は取れませんけど。少し早い秋休みだと思いましょう。」



そう言って初伊を抱え直して立ち上がる私を見た灰音に、言いたい事は伝わったらしい。



「まさか、初伊を、連れて?」

「ええ勿論。というか、初伊が必要ないならわざわざロンドンまでいく必要はありません。」


「ロンドンに連れていってしまえばもう、初伊はモデルをするしか他はない。邪魔なあの人達もいないでしょう?」



初伊を此処で借りれば、間違えなく面倒な事になる。

それならば、手の届かない所に連れていけばいい。

勿論、彼女の居場所は公開しないつもりだし、灰音のアトリエの場所も極秘となっているから追いかけてくる事もないだろう。



「ばっかじゃないの!?そんな誘拐まがいの……」

「これを逃したら、君のミューズは手に入らない。」



驚き怒る灰音に至極笑顔で告げるのは、紛れもない事実。

春瀬灰音は芸術家だ。

芸術家が欲しい物を手に入れるのに、何を躊躇う必要がある?

美しい物を作る代わりに、どんな犠牲を払ったとしても。



「ならばいっそ、本能のままに。」

「〜〜〜っ」




迷えばいい。

散々迷ったって、出す答えはただ一つ。

嗚呼、大きな音が近づいてきたらしい。

ジェット到着まであと数分。

彼は小さなため息をついて、それから何かを決めたように頷いた。




灰音side end




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