きなこ語り~キスの前、キスの後~
そして翌日から、小原家があわただしく動きだした。
厳密に言うとバタバタしたのはお父さんとお母さん、なのだけれど。
お父さんは、ストーカー対策に強い探偵事務所をいくつか選び、
みいちゃんと一緒に無料相談の結果を見ながらこれはというところを
決めると、仕事を休んで男の身辺調査依頼に行った。
それから、お家の警備システムを契約した。
(知らない男の人がドカドカと入って家の中や外の、あちこちにカメラやセンサーを取り付けてきたときには驚いた。
私はクローゼットに避難しなくちゃならなかったけど、お父さんは
『用心に越したことはない、必要なことだし大して値段も高くない』と言っていた)
お母さんはお母さんで、何かの役に立つかもしれないからと、
みいちゃんのバイト先に行き、男が現れたときの証言や証拠集めに出ていったり、仲の良いご近所には少し状況を説明して回ったりしていた。
「逃げ回ってるだけだと、悪化しかしないです」
「今って、一方的に覗き見されたり追いかけられたりして、
どんどん浸食されてるようなモンですよね」
「理不尽ですけど、こちらからも仕掛けていかないとダメな相手みたいです」
「いつまでもこんな目に遭い続けたら、彼女が壊れてしまうんじゃないかって、心配なんです」
ゆうべの颯太くんの言葉で、お父さんとお母さんの
目つきが、表情が。
変わった。
そして、みいちゃんは、と言うと。
下手に出歩けない彼女は、講義のない日はしっかり施錠した家の中、私と過ごす日々が続く。
颯太くんから聞かされた事実がショックだったのだろう。
家の中にいるのに、リラックスした表情より考え込むような顔つきを見ることが増えた気がした。
「アンタはね、私に似て甘え下手。
他人が苦労するくらいなら自分で背負ったほうが良いと
思ってるんでしょうけど、今回だけはダメ」
「もう、瑞季だけでどうにか出来る問題じゃない。
それに、お前一人の問題じゃない。
お父さんとお母さんは瑞季が何よりも大事だから。
だから、お父さんとお母さんの問題でもあるんだ」
「だから、瑞季を守る為に必要なことを、これからしようと思う」
お父さんとお母さんから朝の食卓で語られた言葉に、ジッと聞き入っていた彼女。
「…私、に、できることって…何もない、よね…」
ポツリと言ったみいちゃん。
「できることなら、ある。無防備にならない、安全な場所にいることだ」
「そうよ。それから、お外では常に警戒して、油断しないで」
お父さんとお母さんはそう言ったけど、みいちゃんは悔しそうに唇を噛み締めて俯いた。
違うよ、みいちゃん。
何もできないのは私だ。
彼女を守りたいのに。
ただ、彼女の表情が悲しげだったり、苦しげだったりするのを見るたび、
ただ傍へ行って、寄り添うことしかできなかった。
厳密に言うとバタバタしたのはお父さんとお母さん、なのだけれど。
お父さんは、ストーカー対策に強い探偵事務所をいくつか選び、
みいちゃんと一緒に無料相談の結果を見ながらこれはというところを
決めると、仕事を休んで男の身辺調査依頼に行った。
それから、お家の警備システムを契約した。
(知らない男の人がドカドカと入って家の中や外の、あちこちにカメラやセンサーを取り付けてきたときには驚いた。
私はクローゼットに避難しなくちゃならなかったけど、お父さんは
『用心に越したことはない、必要なことだし大して値段も高くない』と言っていた)
お母さんはお母さんで、何かの役に立つかもしれないからと、
みいちゃんのバイト先に行き、男が現れたときの証言や証拠集めに出ていったり、仲の良いご近所には少し状況を説明して回ったりしていた。
「逃げ回ってるだけだと、悪化しかしないです」
「今って、一方的に覗き見されたり追いかけられたりして、
どんどん浸食されてるようなモンですよね」
「理不尽ですけど、こちらからも仕掛けていかないとダメな相手みたいです」
「いつまでもこんな目に遭い続けたら、彼女が壊れてしまうんじゃないかって、心配なんです」
ゆうべの颯太くんの言葉で、お父さんとお母さんの
目つきが、表情が。
変わった。
そして、みいちゃんは、と言うと。
下手に出歩けない彼女は、講義のない日はしっかり施錠した家の中、私と過ごす日々が続く。
颯太くんから聞かされた事実がショックだったのだろう。
家の中にいるのに、リラックスした表情より考え込むような顔つきを見ることが増えた気がした。
「アンタはね、私に似て甘え下手。
他人が苦労するくらいなら自分で背負ったほうが良いと
思ってるんでしょうけど、今回だけはダメ」
「もう、瑞季だけでどうにか出来る問題じゃない。
それに、お前一人の問題じゃない。
お父さんとお母さんは瑞季が何よりも大事だから。
だから、お父さんとお母さんの問題でもあるんだ」
「だから、瑞季を守る為に必要なことを、これからしようと思う」
お父さんとお母さんから朝の食卓で語られた言葉に、ジッと聞き入っていた彼女。
「…私、に、できることって…何もない、よね…」
ポツリと言ったみいちゃん。
「できることなら、ある。無防備にならない、安全な場所にいることだ」
「そうよ。それから、お外では常に警戒して、油断しないで」
お父さんとお母さんはそう言ったけど、みいちゃんは悔しそうに唇を噛み締めて俯いた。
違うよ、みいちゃん。
何もできないのは私だ。
彼女を守りたいのに。
ただ、彼女の表情が悲しげだったり、苦しげだったりするのを見るたび、
ただ傍へ行って、寄り添うことしかできなかった。