きなこ語り~キスの前、キスの後~
それから程無くして、探偵事務所からの報告により男の身辺が詳らかになる。

男は、隣の市で自営業を営む資産家の息子だった。
男の住居周辺、一帯には名の知れた大地主の家に生まれている。

両親は良く出来た人のようだが、その息子である男の評判は今ひとつどころか
これまでの被害を「気のせいだった」などで片付けられないことを
証明するような内容しか見当たらなかった。

私も聞いていてゾッとした。


「親の仕事の手伝いをしているらしいが、実際何してるかわからない」

「挨拶しても無視されるし、愛想もない。無表情で気味が悪い」

「高校時代に、好きな女の子を無言で追いかけ回して、問題になったことがある」

「大学を2回くらい途中退学して、別の大学に編入していてる。寄付金の多さでかろうじて『自主退学』の名目がついていたが、実際は在学中に好きになった女性を追いかけ回したことが原因で裁判沙汰になり、在籍していられなくなっただけ」

「いずれも両親が謝り倒して、裁判に関してはカネも使って示談に持ち込んでる」

「最後は、相手の女性の顔に傷をつけて警察沙汰になった」


……。

お父さんとお母さんは悩んだ結果、男の親と、男に面会を申し入れた。
それが、相手を刺激することになるかもしれないのは承知の上。

最初、それを知ったみいちゃんは面会することを反対した。

「そんなのダメ!アイツに顔を見られたお父さんとお母さんに、何かあったらイヤだ!」

確かに、危険はあるかもしれない。
でも、何もしないでいるわけにもいかない。
逃げてるだけでは終わらない。

お父さんとお母さんはそう言って、首を横に振って不安がる彼女の説得を始めた。

目に涙を浮かべて首を横に振る彼女に、お母さんが言う。

「あのとき大変だったけど今は平気、って言えるように、皆で頑張るの」

「でも、お父さんとお母さんばっかり…私がいなければ
こんな…」

お父さんが身を乗り出し、彼女の目尻をそっと拭った。

「瑞季、それは違う。お前のせいなんかじゃない。」

「でも、何かあったら」

今度はお母さんが首を横に振って言った。

「瑞季は今、『自分は何もできない』って気にしてるかもしれないけど。
お父さんとお母さんは、瑞季の家族だから、瑞季を守りたいのよ。
守られるのも、心配されるのも娘の役割なのよ。
だから甘えていい、心配かけていいの」


その言葉にようやく、みいちゃんは頷いたのだった。


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