「さよなら」って言って?
『・・・私と、別れてほしい。』


「なんだよ。その冗談。笑わせんなよ。」


俺はついつい笑ってしまった。

明らかに嘘だと思ったから。



『私は、ほ・・・本気だよ?』

星野さんの声は小さく、震えていた。


誰かに言わされている?

そんな風にも考えた。

「そんなこと言うんだったら、理由は?根拠は?」


『・・・・ないけど・・・。』


すぐに回答が来た。

じゃあ、なんで・・・。


「俺は、まだ二人で一緒にいたい。」


『・・・・ごめん。』


「・・・。」


『・・・・ごめん。』

「・・・。」

『・・・・ごめん。』


彼女の心のこもった『ごめん。』に、ジワジワと悲しさが溢れてくる。

短い間の思い出が、よみがえってきた。

いつのまにか、声を出して泣かないと、息が出来なくなるほどに苦しくなった。


しばらく続いていた沈黙が、彼女の言葉によって終わった。
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