恋愛ドクター“KJ”
 「ふ~。三ツ矢サイダーっておいしいね」
 買ったばかりのドリンクを口にしたKJは、何の脈略もなくそう言うと、続けて、
 「あのね、脳のエネルギーになるのはね、糖分だけなんだ」
 と、まるで誰かに講義でもしているふうに語った。

 どうやら、三ツ矢サイダーを初めとした炭酸飲料の多くには大量の砂糖が使用されており、それを摂るのは味だけでなく、脳にもよいことだ‥‥と言いたいらしい。

 「サイダーの話はいいから、それより、彼女がフラれるってどうして分るのか話してよ」
 アスカも一也も、興味はその一点にあった。

 「うん‥‥。あの二人の話もいいけど、それより先に、ジャンケン理論から説明しておいた方が分りやすいと思うんだ」
 そう提案された瞬間、アスカは思い出した。そっちが先だ!

 「あのね、ジャンケンの勝ち負けってね、偶然じゃないんだよ。
 ジャンケンは試合っていうか‥‥、ちがうな、戦いなんだよ。戦い」

 ジャンケンで勝ち続けるためのタネ明かしが始まるものと期待していたアスカだが、いきなり、ジャンケン=戦いと言われ、面食らった。

 「アスカは、“六韜三略(りくとうさんりゃく)”なんて知らないよね。
 “孫子の兵法”ならどう? 知ってる?」

 KJは説明を進めるが、その言葉の一つとして、アスカの知っているものはなかった。
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