恋愛ドクター“KJ”
 「いまの話って、心理学の基本なんだ。人の心の動きを研究する学問だね。
 もちろん、心理学を学べば、他人の考えや行動が何でも分るってことはないけど、大雑把には推測することはできるんだ。
 それって悪いことじゃなくて、病気の治療にも活かされているんだ‥‥」

 そこまで言うと、KJは、三ツ矢サイダーのボトルを地面に置いた。
 「チョッとこれを観て。ここにボトルがあるよね。置かれてる。このボトルを横から押してみるよ。どうなるかな?」
 KJは、言ったとおりにボトルを軽く指先で押してみた。
 押されたボトルは横に動いた。

 「ほら、押されたボトルは動いたよね。押された方向に動いた。
 これって、観ていて不思議だとは感じないでしょ。押したんだから動くのが当たり前だって思うよね」
 KJの言うとおりだった。アスカも一也も、押せば動くのは当たり前だと、そう考えていた。

 「確かに、押せば動くのは当たり前だよ。でも、何で、『当たり前』っていえるんだろう。
 それは、小さいころから、押せば物は動くと知っていたからだ。過去に何度も見てきたし、経験もあるからだね。
 でね、ここからが本題だけど、物を押すと動くっていう現象を説明する学問があるんだよ。物理学だよ。
 心理学はね、物の動きではなくて、心の動きを説明するために生まれた学問なんだ。
 人の心もね、ボトルと同じで、押せば動くんだよ。
 逆にいえば、人の行動を観察することで、その前に、その人の心にどんな力が加わったのか推測できるんだ」

 ≪相変わらず、KJは説明がうまいな‥‥≫
 アスカも一也も、そう感じていた。
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