恋愛ドクター“KJ”
 「簡単な例をあげるとね。誰かが泣いているとするよ。初めて会った人で、その人のことは何も知らないんだ。
 でも、泣き方っていうか、声の感じから、その人が悲しくて泣いているのか、それとも嬉し涙を流しているのか、それは多くの人が判ると思うんだ。
 そうでしょ」
 アスカと一也はだまって一緒にうなずいた。

 「だから、心理学は、恐いものじゃないし、トリックでも魔法でもなく、人の心の動きや行動を推し量れるものなんだ」

 そこまでのKJの話を聞いていると、アスカも少しだけ納得できた。
 落ち着きも出てきた。

 「そうね。KJの言ってることは間違っていないわね。
 でも、ジャンケンみたいに個人と個人のゲイムなら勝てそうだけど、一也が話していた 『多数決』はどうなるのよ。
 ホームルームで何かを多数決で決めるとき、それを自由にコントロールするなんてムリでしょ」
 元気を取り戻したアスカは、もう一つの疑問を口にした。

 「そうだよ。そっちはジャンケン・ゲイムとは違うだろ」
 一也もアスカに追従した。

 どう考えても、不特定多数の人間の行動をコントロールできるはずが無い。
 そう信じて疑わない二人に向かって、KJは笑いながら説明を始めるのだった。
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