恋愛ドクター“KJ”
 30人を2つのグループに分ければ、それぞれのグループで意見は合っているはずだ。
 それ以外は有り得ない。
 アスカと一也には、KJの説明は納得できなかった。


 「3つのグループってどういうこと?」
 また、アスカが聞いた。

 「人ってね、誰も彼も、いつでもしっかりと自分の考えや意見を持っていることの方が少ないんだ。
 例えば、学食でお昼を選ぶとき、何でもいいやって思うことあるでしょ」
 そう言われると、二人ともうなずくしかなかった。

 「つまり、30人の中の10人は北海道へ行きたくて、ほかの10人は沖縄へ行きたくて、残った10人はどっちでもいいって考えているんだ。
 いや、現実には、北海道へ行きたいのが5人。沖縄へ行きたいのが5人。どっちでもいいのが20人だよ」
 KJにそう言われると、アスカにも一也にも思い当たるところがあった。

 「ホームルームで意見を出し合うとき、例えば北海道へ行きたいって人が、北海道の素晴らしさを語るよね。でも、そんなことをしても、沖縄へ行きたい人の気持ちは変えられないよ。そんなことはムリだ。
 ここで変えさせるっていうか、正確には傾かせるかな、なびかせるでもいいけど、仲間に入れたいのは、『浮動票』の20人なんだ。
 この20人を、どうやって動かすかで勝負は決まるんだ」

 「たしかに‥‥。そうかもなぁ‥‥」
 一也は、3年前のホームルームを思い出すような顔つきで、そうつぶやいた。

 「浮動票っていうのは、どっちでもいいって考えている人たちだよね。積極的には北海道も沖縄も選ばない。
 そんな30人の中で、北海道へ行きたい5人と、沖縄へ行きたい5人が意見を出し合うんだ。20人は発言なんてしないよ。黙って聞いているだけさ。
 そうやって1時間が過ぎて、決を採るとき、どうなると思う?」

 「どうなるって、そんなのどっちかに決まるだけでしょ」
 KJが何を聞きたいのか分らない‥‥という顔つきでアスカが答えた。

 「うん。どっちかに決まる。
 そのどっちかだけど、後から決を採った方に決まるんだよ。
 だから、もし、最初に『北海道へ行きたい人は挙手をお願いします』って議長が言ったら、その時点で行き先は決まるんだ。
 沖縄だよ。北海道にはならない」

 KJは断言した。
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