恋愛ドクター“KJ”
 やさしく話すKJだが、アスカの挑戦的な態度は変わらなかった。

 「なんだかあやしいのよね。ジャンケンでずっと勝つなんてムリよ。 
 どうせ一也のクセか何かを知って、それで勝ってるだけでしょ。
 初めての相手とジャンケンして勝てるはずないわよっ!」
 アスカは、どこか勝ち誇った口調でKJに迫った。
 
 「どうかなあ。たぶん、負けないと思うけど‥‥」
 ゆったりと答えるKJは笑顔を絶やさず、心は少しも波立たなかった。

 「そうかしら? だったら私とジャンケンしても勝てるっていうの? 絶対に勝てるって言い切れるの? 言い切れるのっ!」

 表情も口調も変えないKJにイラついたのか、アスカは眉を吊り上げ声も割れた。

 「ははは、その顔、サルみたいだな。それじゃサルだよ」
 そのKJの言葉には、アスカはもちろん、クラスメイトの誰もが凍った。
 「さ、さ、サルですって! 
 キーッ!!」

 誰もが振り返るほどの美人‥‥とは言わないが、品も可愛らしさもあるアスカに向かって“サル”呼ばわりしたKJ。
 何が起こっても不思議はなかった。

 「怒るとますますサル顔になるね。サルが相手ならジャンケンも負けっこないよ」
 空気が読めないのか? それともアスカの挑戦が気にさわったのか?
 KJは表情を変えずに繰り返した。静かな言葉だけに、逆に激しくアスカの胸を貫く。
 
 「そこまで言うならみんなが証人よ。もし負けたら土下座して謝ってもらうからっ!!」
 目までも尖らせたアスカは、そのセリフをKJに叩きつけた。

 「ああ、いいよ。でも、後で“反省”するのはサルだと思うけどね」
 ゆったりとした口調を崩さないKJだが、次の瞬間、いきなり大声で叫んだ。

 「ジャン、ケン、ポーン!」

 勝負は一瞬で決まった。
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