秘密のイケメンさん
謎のイケメンデザイナー
デザイナーには「オネエ」が多い……って、聞いてはいたけど、まさか「オネエ」と一緒に働くことになるとは思わなかった。
大通りに新しく店を構えた若者向けの洋服店に就職した私は、今日も洋服の検品作業に追われていた。
「まだその仕事終わらないの?トロイ子ね」
あくびをしながら椅子に座って私たちの仕事を眺めているだけの人に言われたくない。
デザイナー志望の私は、何社も面接を受け、でも、ことごとく落ちて、落ち込んでいた。最後の1社、あこがれだったデザイナーの店。こんな大手の会社が私みたいなのを採用してくれるわけない。そう思っていたから最後にした。
そして、本当にダメもとのつもりの面接だった。
面接のとき、大きな会社の会議室にいたのは、専務と常務と、デザイナーとパタンナーの女の人。そして事務局長らしい人だった。
女の人は別として、こんな人が洋服作っているのかと思うくらい、さえないおっさんばかりの中で目を引いたきれいな顔立ちのデザイナーの男の人。
あのステキな人があの服をデザインしているんだ。
あの服のデザイナーさんに会えたと思うだけで、もう天にも昇りそうだった。
眠そうな目をこすりながら頬杖をつき、一生懸命話をしている私をつまらなそうに見ているその姿も、セクシーに見えるほどのイケメンだ。
面接が終わり立ち上がってお辞儀をした時、終わったと思ってほっとした顔をしたら、突然そのデザイナーが立ち上がり、私のそばに寄ってきた。
私を上から下まで見つめ、自分の顔にかかった前髪をかき上げた。
この人、なんでこんなに色気があるんだろう。そんな目でじっと見つめられたらドキドキが止まらない。
私は目をそらすこともできず見つめ返し、苦し紛れににっこり笑って見せた。それを見たデザイナーさんも、少し笑ったように見えた。
それが良かったのか、合格の通知を見た時は飛び上がりそうだった。そして事務局からの突然の電話。
私は、新しい店舗を立ち上げるメンバーに加えられたようで、卒業を待たずに仕事に行くことになった。あのステキなデザインをするイケメンさんと、仕事ができると思っただけで、うきうきした。
新しい店舗はまだ内装工事中だった。面接の時にいたパタンナーの伊藤さんと一緒に働く売り子の松原さんは、事務仕事をしていた。
……イケメンのデザイナーさんはいない。
伊藤さんは私に、照明器具取り付けの仕事をくれた。
「でも、気を付けてね。それひとつ、ウン十万するから」
こだわりのデザイナーって言うのは、こんな小さな照明器具一つにもこだわるのかと感心した。
4つ取り付け終わり、最後の一つが手の届かないところだったので、そのあたりにあった小さな脚立に登った。
それでも微妙に届かない。
ちょっと背伸びをしたらバランスを崩した。
これ、ウン十万の照明!!とっさに照明をかばい転落……!
あれ?痛くない。
私は誰かの腕の中にいた。
そっと目を開けると、すぐそばに、イケメンデザイナーの顔があった。
「す、すいません!」
がっしりとした体つき、ごつごつした大きなその手に守られた私は、一気に心拍数が上がった。
「照明より、自分の体守りなさいね。」
やさしい~。ぽ~っとイケメンデザイナーの後ろ姿を見ながら、ちょっとした違和感に気が付いた。
『守りなさいね』?
『ね』???
―まさか、そのイケメンがしゃべるとオネエだったなんて……。
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