秘密のイケメンさん
イケメンはイジワル
 さらに数か月後、先生は新しい女の子を連れてきた。見るからに昔の私。

 だっさい髪型で、変な服のとりあわせ。でも笑顔がステキな女の子だ。

「あの子が次のターゲットっていうわけですかね」

 私は少しあきれたように松原さんに言った。

「そうね。また先生のお気に召すように、つくりかえられるんじゃない?」

「またあのイケメンボイスでね」

「イケメンボイス?何言ってるの?先生の声、そんな風に聞こえるの?笑える」

 あれ?松原さんは先生のイケメンボイス聞いたことないのだろうか。

 今でも耳もとに残ってる先生の男の声。

……思い出しただけで、心臓がぎゅってなるのに。


 新しい女の子は美容室に連れていかれ、髪を切られたと泣いて帰ってきた。
 
 すっごくステキになったのに、こんなところやってられないと、その日のうちに辞表を書いてやめてしまった。

 「よくあることよ」と笑う先輩たち。その日、先生は一度も部屋から出てこなかった。

 閉店後、戸締り当番が私だったので、先生に部屋から出てもらおうと、声をかけた。

「すいません。そろそろ戸締りしたいのですが……」

 返事がない。

「すいません」

「……山川か……入れ」

 久しぶりに聞いた先生のイケメンボイスだった。

「し、失礼します」

 薄暗い部屋に書きかけのデザインが散らばっていた。

「あいつのためにこんなに書いたのに、やめやがった」

 先生は向こうを向いたままだった。

「あの……」

「こっちこいよ」

 振り向いた先生は、いつもオネエなのが信じられないくらい、男の顔だった。

 私は少し警戒した。

 この人、本当はオネエじゃない。いつもオネエのふりをしているだけだと確信したからだ。

「山川」

 その反則のイケメンボイスに、体が勝手に反応する。

 「この人は別に私じゃなくてもいいんだ」頭では分かっているのに心臓が締め付けられる。

 先生のそばに行きたい。あの眼でもう一度じっと私の顔を見て。

 そばに行くと、先生は私の頬に手を伸ばした。ドキドキが止まらない。

 先生が私に近づいてくる。私の頬に先生の掌が優しく触れる。

 心臓が口から飛び出しそうで、私はぎゅっと目をつぶった。

「……お前のほっぺ、ホントやわらけーな」

 雰囲気ぶち壊しのその声に驚いて、パッと目を開けると先生はにやっと笑った。

「なに?キスでもされるかと思った?」

 私は恥ずかしくなって下を向いて、首をふった。

「このほっぺが癒されるんだよな」

 私のほっぺをふにっとつまむと、先生は私から少し離れ、後ろを向いた。

 私は恥ずかしくて、恥ずかしくて、その思いを怒りに変えた。

「誰にでもこんなことするんですか?それに、どうしてオネエのフリなんてしてるんですか?あなたが何を考えているのか全然わからないです!」

「何言ってるの~、私はオネエよ~」

 腹が立って、先生を突き飛ばし、店の鍵を置いて帰った。
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